決議文・意見書・会長声明

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

2015.06.24

1 はじめに 

2013年12月に,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」が,国会に提出された。本法案は,カジノを含む特定複合観光施設区域の整備推進を目的とし,そのための関係諸法令を整備する基本法的な性格を持ち,一定の条件のもとで刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当する行為を合法化し,カジノを解禁するものである。
 本法案については,提出当初から様々な問題点が指摘され,議論が紛糾して審議が進まないまま,衆議院の解散によって廃案となったが,2015年4月28日に再提出された。
 しかし,以下の問題点から,本法案を容認することは到底できない。

2 カジノ解禁推進法法案の問題点

(1) 暴力団対策上の問題
 カジノを解禁すれば,暴力団が資金獲得のためカジノへの関与に強い意欲を持つことは,容易に想定される。
 暴力団自身が事業主体となり得なくとも,従業員の送り込み,事業主体の下請等といった,種々の脱法的方法でカジノ事業及びその周辺領域での活動に参入する可能性がある。
 (2) マネー・ロンダリング対策上の問題
 我が国も加盟している,マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業 部会)の勧告において,カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されている。我が国にカジノを設けた場合,仮にカジノ事業者に様々な義務を課したとしても,マネー・ローンダリングを完全に防ぐことは極めて困難であると考えられる。
 (3) ギャンブル依存症の拡大・多重債務問題再燃の危険性
 ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性の重篤な疾患である。ギャンブル依存症から家族関係が悪化したり,多重債務に陥って犯罪や自殺に至ったりする者も少なくない。もしカジノを解禁すれば,ギャンブル依存症患者が更に増加することは避けられず,深刻な事態を惹起する。
 2006年の貸金業法改正等,一連の多重債務者対策によって,この間,多重債務者が激減し,結果として,破産者等の経済的に破綻する者,また,経済的理由によって自殺する者も減少してきた。しかし,カジノの合法化は,これら一連の対策に逆行して,多重債務者を再び増やす結果をもたらす可能性がある。
 (4) 青少年の健全育成への悪影響
 合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も座視できない。とりわけ,IR方式(カジノが,会議場,レクリエーション,宿泊施設その他と一体となって設置される方式)は,家族で出かける先に賭博場が存在する方式であるから,青少年らが幼少のころからカジノに接することにより賭博に対する抵抗感を持たないまま成長することになりかねず,そのような環境では健全な勤労観念が涵養されようはずがない。
 (5) 経済的観点からの合理性の検証が不十分であること
 カジノ推進の立法目的に経済の活性化が掲げられているが,上で述べたような弊害を考えれば,仮に経済効果があったとしても推進すべきではない。
 また,その経済効果の有無は,十分な検証の上に評価されるべきであるが,今のところ経済効果についてはプラス面のみが喧伝され,経済的なマイナス要因の可能性について,客観的な検証はほとんどなされていない。

3 結論

以上のとおり,当会は,本法案について,その立法目的である経済効果に対する検証が不十分なものであるうえ,カジノ解禁が上記の様々な弊害をもたらすものであることから,これに反対する立場を表明するとともに,その速やかな廃案を求めるものである。

 

2015(平成27)年6月24日

富山県弁護士会  会 長   水 谷 敏 彦