北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

職場で旧姓を使いたい-会社は認めるよう配慮を

2018.11.10

北日本新聞掲載 2018年11月10日

執筆者:伊藤 建弁護士

お付き合いしているパートナーからプロポーズされました。私は「山田真理恵」(仮名)という名前が気に入っていたので、姓を変えたくありませんでしたが、パートナーは代々続く「佐藤」家の一人っ子。やはり姓を変えたくないと言います。最終的には私が折れました。ただ、職場では親しい同僚から「山ちゃん」と呼ばれていたので、旧姓の使用を会社に求めたのですが、認められませんでした。どうすればよいでしょうか。

結婚をして、自分の旧姓が職場で使用できなくなったことの苦痛は、なかなか理解されにくいものです。名前は、両親が姓とのバランスを見ながら画数や響きなどから生み出した授かりものです。人によっては、旧姓を使えないことで、人生を否定されたような苦痛を感じることも十分あり得るでしょう。

姓が変わると、クレジットカードや預金口座、運転免許などの名義変更をしなければなりません。たとえ旧姓を通称としても、公的な文書には使えません。

とはいえ、法律婚をするためには、夫婦どちらかの姓に決めることを迫られます。96%以上の夫婦が夫の姓を選択していますので、これらの負担は、ほとんどの場合、女性が負っているのです。

ただ、残念ながら、あなたが会社に対して婚姻前の姓を使用するように法的な請求をすることは、現時点では難しいでしょう。2016年の裁判例で、職場で旧姓の使用を認めなかったとしても違法ではないと判断されているからです。

もっとも、近い将来、あなたの請求が認められる可能性は残っています。この裁判例が違法としなかったのは、当時、職場で旧姓を使用することが社会に根付いていなかったからですが、旧姓の使用を認めるよう配慮することが望ましいことは認めています。今後、職場での旧姓使用が広まれば、裁判所の判断が変わることもあり得ます。

そのときまで希望を捨てず、社会に問題提起をし続けることが、あなたの役割かもしれません。