北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

認知症の父の財産が心配-後見人選任申し立てる

2019.10.12

北日本新聞掲載 2019年10月12日

執筆者:足立政孝弁護士

父の物忘れが最近ひどくなり,病院でアルツハイマー型認知症と診断されました。私には兄と弟がいますが,父と同居する兄が預金などを管理しています。近頃,兄が父と一緒に金融機関を回っていると耳にしました。私と弟は,父の預金をどのように管理しているのか兄に尋ねたのですが,「お前たちには関係ない」と言い一切説明をしません。どうしたらよいでしょうか。

お父さんは自分で財産の管理をすることができないと思われますので,あなたから裁判所に成年後見人選任を申し立てることをお勧めします。

後見人は判断能力が十分でない人(成年被後見人)に代わって,財産を管理します。今回の事案では,後見人は現在お父さんの財産を管理していると思われるお兄さんから預金通帳や実印などの財産の引き継ぎを受け,お父さんの代理人として財産管理を行うことになります。

後見人は,財産の一覧表である財産目録を作ったり,収入と支出の状況を表す収支計算表を作る義務があり,それらの書類を元に,定期的に裁判所に被後見人の財産状況を報告しなければなりません。

成年後見人選任申立書には,後見人の候補者を書くこともできますが,裁判所は後見人としての適性を事案ごとに判断しますので,必ずしも候補者として書いた方が選ばれるとは限りません。▽親族間で財産の管理を巡って対立がある▽管理することになる財産が多額▽被後見人の財産が不明-などの場合は,弁護士ら専門家が後見人として選任されることもあります。

今回の事案では,後見人による財産調査の結果,お兄さんに対し不明金の返還を求める必要があるかもしれません。また,あなたを候補者としても,お兄さんが反対する可能性が高いと思われます。従って,最初から弁護士を後見人とするように裁判所に申し出た方が良いでしょう。

なお,成年後見人選任申立書には被後見人に判断能力がないことを裏付ける,医師による診断書を添付する必要があります。あなたのケースでは,お父さんの診断書を取り寄せることが難しいと思われます。どうしても診断書が用意できないのであれば,申立書に診断書を用意できない事情を記載した上で,診断書を添付せず裁判所に提出することでも構いません。

この場合,裁判所を通して医師による精神鑑定を行う必要があるため,費用を別途に納める必要があります。費用については裁判所に相談される方が良いでしょう。