北日本新聞掲載『くらしの法律Q&A』

業績悪化で内定取り消し可能?-合理性や相当性必要

2021.01.09

北日本新聞掲載 2021年1月9日

執筆者:志田祐義弁護士

大学卒業後,4月からA社に就職する予定でしたが,A社から新型コロナウイルスの影響で予想以上に業績が悪化したため,内定を取り消すと通知されました。職種変更や補償の提案もありません。このような内定の取り消しは法律上可能なのでしょうか。

採用内定を得た学生と企業との関係については,最高裁判決が存在します。判決は,勤務開始が卒業後の4月からで,かつ次のような場合であれば,会社側から内定を取り消せる労働契約が成立するという内容です。

そして,内定を取り消すことができるのは,内定時に知ることができず,また知ることが期待できない事実があって,留保された解約権の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で,社会通念上相当と認められる場合に限られます。

企業の業績悪化を理由とする内定取り消しが認められるかについては,単に業績が悪化したという理由だけでは足りません。①業績悪化の程度が人員削減が必要なほどであるか②企業が内定取り消しを回避するための努力を尽くしたのか③人員削減の対象の人選に合理性があるか④企業側が説明や協議を行ったのか-といった点を考慮し,判断されるものと考えられます。

お尋ねの件では,採用内定通知を受け取り,その後入社に当たり,特段の手続きが予定されていないような場合は採用内定の段階で「始期付解約権留保付」の労働契約が成立したものと考えられます。内定の取り消しには,客観的な合理性と社会通念上の相当性が必要になります。

そして,新型コロナによる業績悪化を内定取り消しの理由としていますが,職種変更や補償の提案もなく,突然内定を取り消されたという場合は,企業側に取り消しを回避するための努力や,内定者への説明,協議といった部分が不足していると考えられ,取り消しできない場合に該当する可能性があります。

もっとも,その他の詳しい事実関係が影響する場合もありますし,その企業に就職を求めるのか,損害賠償を求めるのかといったことも問題になるので,弁護士に相談することをお勧めします。